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ボランティア活動国際研究会
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リレーコラム

リレーコラム 「日本人のボランティア活動参加率は米国人とほぼ同じ?」

JIVRI幹事 村上徹也

 東日本大震災の被災地で多くのボランティアが活動していた2011年の秋に総務省が行った社会生活基本調査によると、過去1年間に何らかのボランティア活動を行った日本人の割合は26.3%だった。社会生活基本調査は5年ごとに行われる全国調査で、毎回ボランティア活動についても参加の有無、日数、活動分野などについての調査が含まれている。 
 日本人のボランティア活動参加率は、1996年に26.9%だったのが、2001年は28.9%に上がり、2006年には26.2%に再び下がっていた。2011年の調査では、災害分野の活動参加率が2006年の1.2%から3倍以上の3.8%に増加していて、東日本大震災の影響と考えられる。それに伴って全体の活動参加率も上向くかと思われたが、他のほとんどの分野の活動参加率が下がった影響で0.1ポイントだけの増加に留まった。 
 このような傾向からすると、概ね4人に1人よりやや多くが1年のうちに1回以上ボランティア活動に参加するのが現代日本の状況といえそうだ。この割合は、国際的に見ると少ないのか多いのか。 
 「過去一年間に何らかのボランティア活動に参加したか否か」という同一の質問条件の他国の調査結果を見てみると、最も割合が高いのはカナダの46.0%(2007年)で、その次が英国の43.0%(2007年)だ。この数字と比べると、日本の数字はかなり少ない。「キリスト教文化の国だからボランティア活動が盛んなのだ」という人がいそうだが、フランスは27.0%(2003年)で日本とほとんど変わらないし、興味深いのは米国も26.8%(2011年)だということだ。 
 かつて米国のボランティア推進団体で研究員をしていたとき、よく日本で言われているボランティア活動についての「キリスト教文化圏優位説」を何人かの米国人にぶつけたことがある。異口同音のごとくに返されたのは「どんな宗教にも他者を助け社会に役立つ教えが含まれるから宗教の違いは関係ない」という話だった。 
 ちなみに、上記の26.8%という米国の数字は、米国労働省労働調査局が毎年発表しているデータだ。少し以前まで日本で紹介されていた米国のボランティア活動参加率の数字は4割とか5割だった。これらは、ボランティア活動を推進する立場の民間団体による調査結果だったため、「米国はボランティア活動が盛んだ」と主張した方が、世間の注目や寄付が集めやすいという民間団体側の事情が調査のさじ加減に影響を与えていた可能性がある。


リレーコラム 
企業の社会貢献活動担当者のボランティア雑感

JIVRI副代表 平井昭

 現在筆者は明治安田生命で社会貢献活動推進の職務に就いています。当社の社会貢献活動の大きな柱は、①子どもの健全な育成を目ざした複数のプログラム(対外的には「子どもの明日 応援プロジェクト」と総称)の展開と、②地域社会への貢献活動、とくに 従業員によるボランティア活動の推進です。<※是非一度当社のHPをご覧いただければと思います。> 
 近年、従業員によるボランティア活動は増加傾向にあり、当社の昨年の実績は、全国の事業所で1,321件のボランティア活動が実施されており、参加した従業員数も延べでは優に従業員総数を超している状況です。従業員ボランティア活動の支援策として、ボランティア活動に関する情報提供や活動資金助成を実施しているほか、社内啓蒙のため、平成21年度より社内表彰制度として「ボランティア表彰」を新設し、従業員のボランティア意識の向上を図ったり、好事例の共有を行なっています。とくに、「ボランティア表彰」の効果は大きく、社内においてボランティア活動は“当たり前”のことという意識も根付いてきました。一方、所属単位で仲間が集まって行なうボランティア活動が中心のため、休日に行なう単発のイベント的活動が中心になっており、個人が継続的に行なう市民ボランティアという観点からは物足りないと言えなくもありません。このあたりを企業が推進する従業員ボランティア活動をどう位置づけるかということになるかと思います。 
 所属の仲間(従業員)が集まって、お互いのコミュニケーションを図りつつ、(当社の)行動規範やCSR宣言にも謳われている「地域社会への貢献」を行なうとともに、所属する事業所のある地域社会に当社をアピールするというのが、当社従業員ボランティア活動の最大公約数の姿というところです。もっとも、単純な(?)清掃活動だけではなく、地域のNPOや行政と連携をすることにより活動のバラエテーを出したり、活動回数も単発で終わらず継続して活動したりと活動の内容も深みを増してきています。また、ボランティア活動を1回経験することで、ボランティア活動に対する心理的なバリアをクリアーして、その後で個人で地域のボランティア活動に参加する事例も見られます。 
 今後の活動展開にあたっての課題もたくさんあります。情報の提供の量や質の問題、魅力的なオリジナルプログラムの企画、まだまだボランティア活動への参加が低いいわゆる幹部層への働きかけ等です。 
 この9月に当社が被災地である岩手県(釜石市)、宮城県(七が浜町)、福島県(南相馬市)において労使共同で実施した東日本大震災復興に向けた災害ボランティア活動は、社内募集を労働組合のルートも通じて行なったことや、被災地の従業員と全国の従業員が一緒になって活動を行なうという企画が従業員のニーズにマッチしたこともあり、年齢・性別・役職等いろいろな従業員から募集人数の3倍もの応募がありました。この活動が今後の活動に一つの示唆を与えているかと思っています。


リレーコラム 
ナショナリズムと市民社会

青木利元

 8月22日―23日、北京で「日中韓市民社会フォーラム」を開いた時は、私たちは反日の風圧を感じることはなかった。ところが、あれから1カ月余が過ぎ、あれよあれよという間に両国の関係は危機的と言われるほどに険悪になってしまった。
 中国政府の執拗で高圧的やり方の中に「中華ナショナリズム」のうねりを読み取る人もいる。国力を強大化させた中国は今や、反日を契機に過去の列強による支配の屈辱の恨みを晴らし、近代以前の長い中華支配の伝統の復活拡大を図ろうとしていると見る。中国には、4000年という歴史の中で生みだしてきた陰陽の世界観や精緻に体系化してきた儒教の哲学がある。その世界観や哲学によって正当化された権力が中国皇帝であり、それを頂点に世界秩序が成立している、とかつての中国の権力者は考えていた。「中華ナショナリズム」はこの思想を継承するものだという見方である。 
 ある新聞を読んでいてこの「中華ナショナリズム」という言葉に出くわした時、私は10年ほど前に米国・ボストンを訪問した時のことをふと思い出した。日米草の根交流プログラムに参加し、私は何人かの企業人とともにボストンにあるシェーンさんというベンチャー・キャピタルの経営者の属する高級な会員制クラブを訪問した。彼が特別に招待してくれたのである。ボストンは京都の姉妹都市である。「京都は長い間日本の文化の中心であったが、ボストンも米国の文化の中心と言われているのだろうか」と彼に問いかけると、シェーンさんは笑いながら「ここではボストンを宇宙の中心と考える人もいますよ」と答えてくれた。おそらくシェーンさんもそう信じている一人なのだろう。ボストンが宇宙の中心とは!清教徒の自意識とはかくなるものかと私は唖然とした。アメリカニズムが宇宙論とつながっているのなら、米国の意思に反するものは、邪悪な悪者ということになるだろう。9.11後の米国の行動を見れば、そのことがおのずと首肯される。 
 しかし、日本のナショナリズムも相当なものである。江戸中期の思想家であり商人道という職業倫理の唱導者でもあった石田梅岩は、天照大神は日本の祖先であり、天皇は代々この天照大神を継承してきた万世一系の系統であるがゆえに日本人はことごとく崇敬している。これは中国とは異なるものであると、日本の国体の一貫性を強く意識し称揚した。こうした考え方が明治政府の国家神道イデオロギーとして近代日本を強く推進するとともに呪縛していったことは、歴史の教えているところである。 
 宗教や民族意識が国家の指導原理としてイデオロギー化されると、そのナショナリズムはすさまじい排他主義や暴力を生みだしやすい。 
 市民社会はナショナリズムのアンチテーゼになるのだろうか。 
 市民社会には国境がない。市民社会がコミットする社会的課題は個別的ではあるが社会体制や政治体制がどのようなものであれ普遍的であり、またその取り組みに参加する人々を民族や宗教の違いで差別するものは何もないからである。 
 その意味では、市民社会は偏狭なナショナリズムや国境を相対化させる潜在力がある。

 その力を私たちは不断に再確認する必要がある。

 
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